お弁当は少しの未来のカタチ 『高杉さん家のおべんとう』<1〜3巻> 柳原望

漫画 『高杉さん家のおべんとう』

 読書好きですが漫画も結構読んでいます。今一番楽しんで何度も読み返している漫画の一つに、柳原望さんの『高杉さん家のおべんとう』があります。

 主人公は、大学で文化人類学系?で博士号を取ったものの無職で大学の研究室にいる温巳(はるみ)。いわゆる未来への見通しがつかない31歳のオーバードクターで、性格は優柔不断で残念なダメダメキャラ。両親は高校生の時に自動車事故で亡くしてしまっています。
 両親の事故の一因ともなった若い叔母・美哉(温巳の初恋の相手)が急逝し、12歳の中学生従妹・久留里(くるり)を引き取ることに。
 他人に心を開かない美少女中学生・久留里と色々残念な温巳の共同生活。二人が近づくきっかけは「おべんとう」。少し恋愛模様が入ったハートフルなおべんとうコメディといった内容です。

 2010年1月に第1巻が発売され、2011年7月現在、第3巻まで発表されています。
 いわゆる簡単なお弁当レシピなども登場する料理漫画の一種かもしれませんが、別に環境問題がどうとか味付けの腕がどうたらという高圧的な雰囲気は一切無く、ごくごく普通のお弁当を毎日作って、それによって紡がれる人間模様が爽やかに描かれています。
 温巳と久留里の従兄妹同士の微妙な恋愛関係?だけではなく、大学の研究室関係を中心とした人間模様(姉御肌の同期の准教授や、残念な温巳に恋心を抱いているホンワカマイペース系特別研究員等々・・・)、久留里の中学校における人間関係など、食を通じた人情模様が色々考えさせてくれます。

 女性キャラクタの可愛さや温巳のダメ男ぶりの可笑しさといった面白さだけではなく、色々考えさせてくれる台詞にハッとさせられてのめり込んでいます。
 例えば、第1巻の第5話「おべんとうの時間軸」で温巳が想い語っている台詞。

 弁当作りは不思議な時間だ
 今食べるわけじゃない食事を作る
 どこにいてどんな状態か思いを巡らせ整える
 ほんの少し未来をしつらえる作業なのだ

 そして、なかなか正職につけない温巳がベランダで景色を眺めながら溜め息。未来が途方もなく怖くなり、(半ば冗談で)いっそ飛び降りようかな・・・と思ったり。
 そこへ久留里が学校から帰宅し、今日の夕飯と明日のお弁当を一緒に作りながら温巳が想ったこと。

 なんだ
 できるじゃないか
 1年先2年先はわからないけど
 少なくとも明日の昼飯はなんとかできる
 考えて工夫して充実させることができる
 ほんの少し未来を作ることができるのなら
 そのまた先も
 そのほんの少し先も
 その先も
 きっと何かできることはある
 そんな気になれた

 正直に告白すると、泣けてきてしまいました。今現在も個人的に何となく不安定なところはあるし、大学での研究室生活とか当時漠然と抱いていた将来への不安な気持ちとかを思い出してですが・・・。
 僕はこれまで母親以外に、当時一緒に住んでいた女性にお弁当を作ってもらって大学の研究室に行っていたことがあります。感謝はしていたのですが、ちょっと何か甘え過ぎていたところもあったかもしれないな・・・と今更ながら反省しています。

 自分や愛する人のほんの少し先の未来をカタチづくるお弁当作り。本当に素敵な行為。コンビニ弁当や外食では手に入らない(気づきもしない)かもしれない素敵な想い。
 この漫画を読んで、お弁当まではいかないけれど、ほんのほんの少しの未来である夕食をせめて作っていこうと想い始めました。もっとも誰に届くこともない、オトコ自分一人のためですが、出来合いの冷めた半額総菜をつっつくよりもはるかに素敵な行為だと思います。

高杉さん家のおべんとう 1
高杉さん家のおべんとう 2 (MFコミックス)
高杉さん家のおべんとう 3 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
 作者:柳原望
 初版:2010年1月(第1巻) 版元:メディアファクトリー(コミックフラッパー掲載)
 第4巻ももうしばらくしたら発売のようです。

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2011-07-19 | Posted in 食のこと, , , , , , , Comments Closed