「普通のラーメンでいい」と呟く可愛くない息子

 子供の頃、休日に親に連れられて外食に行くという経験は、恐らく多くの人が体験したことでしょう。もっとも、日常的にファミレスなどで夕飯を食べる家族は別にして、これまた恐らく、たまの外食は小さいけれども子供にしてみればちょっとしたイベント事でしょう。

 「普通のラーメンでいい」

 僕が必ず家族とのお出かけ先で口にした言葉です。小学校の頃のことです。
 土曜日か日曜日のお休みのとき、両親と妹と僕の四人家族でJRの芦屋駅付近まで20分位歩き、「何が食べたい?」と尋ねられたら必ずといっていいほど、そう答えていました。「〜がいい」とは言わず「〜でいい」と必ず口にしていました。そしてラーメンを申し訳無さそうに食べ、当時お約束であった漫画でも小説でも何でも良いから一冊だけ買ってもらえる本を何にしようかと思いめぐらしてました。読書好きなのでメインは圧倒的に本なのです。ラーメンを食べるくらいなら、二冊本を買ってくれた方が嬉しいと思っていました。

 僕は小さい頃から母親に「うちは貧乏だから」と言われて育ってきました。子供心に「貧乏」という言葉は理解出来ていました。確かに、周りの友達と比べて、僕の家は変わっていました。
 テレビが無いし、もちろんファミコンもスーファミもありません。ランドセルではなくて塾に持っていくようなカバンで登校していましたし、家にはいわゆる学習机もありませんでした。友達は貰っていたお小遣いもないので、ビックリマンチョコを買ってシールをゲットすることも出来ませんでした。友達は父親がやれ係長になったとか課長になったとか言っているのに、母親に尋ねても僕の父親の肩書きを教えてくれませんでしたし、そもそも父親が何の仕事をしているのか分かりませんでした。友達の父親は電車の運転士だのクルマを作っているとか言っているのに・・・。

 このように、小学校というコミュニティの中で、子供心に他人と比較して、うちが変わっているというのは直ぐに気がつきました。そして母親から言われ続けている「貧乏」という言葉。だから、正直に言うと、外食に行くことすらなんとなく後ろめたく、それでも「何が食べたい?」と問われると、一番安い500円位の「普通のラーメンでいい」と答えていました。JRの芦屋駅の大丸(モンテメール)の上のレストランで洋食を頂く時は600円位のミートスパゲッティを頼みました。とにかく、その店の中で一番安いメニューを必ず注文していました。貧乏な親に負担をかけたくないという子供心です。「一番安いやつ」とかは何となく親に気を遣って言えないのに、「〜でいい」と「〜がいい」のニュアンスの違いには気がつかなかった子供でした。
 そういう気持ちを常に抱いていたので、友達から誕生日会やクリスマスパーティーに誘われても、お小遣いが無いからプレゼントも買えない、親にもねだれないということで必ず理由をつけては断っていました。

 今から思えば、というか後には分かったのですが、親の教育方針で「うちは貧乏」と子供には言い聞かせようとしていたようです。小学生には馴染みが無いのですが、父親は大手の電機メーカーに勤めていて研究職でした。仕事も内容も到底普通の子供には理解出来るものではなく、肩書きも普通とは違います。今でも現役で働いていますが、その会社を転職した10年前くらい前も(そして今も)、恐らく僕が将来給料が上がっても到底稼げないであろうほどの金額を手にしています。

 大きくなった今、休日は京都の本や巡りをしています。何軒も梯子をして数冊の本を買い込み、お腹がすいたので何か食べようかと考えたとき、いつも小さい頃の外食を思い出します。独身ですし、ありがたいことにお金さえ出せば美味しいものは食べられる生活を送っているのですが、何となく「消えもの(食べ物)にお金を使うのはもったない」という意識がどこかにあります。そして結局、カフェでブラックアイスコーヒーだけ啜りながら小説を読むといういつもの流れになります。
 カフェでふと横に目をやると、家族連れがケーキセットやカフェ飯を注文しています。小さな子供たちが嬉しそうに頬張り、親たちがそれを優しく見守っています。

 「可愛くない息子だったな・・・」

 そんなとき、いつもそう思います。僕が将来仮に結婚して子供を授かることができたとして、僕の小さい頃みたいな態度を子供がとったら正直、困るでしょう。絵に描いたような贅沢はさせられないけれど、貧乏と諭して気を遣わすことだけはやめようと思います。薄くなったアイスコーヒーをチビチビと啜りながら、そんなことを頭の中で想い巡らせます。もっとも、結婚をして子供ができ、育てられればの話ですが・・・。
 何となくダメな僕には到底無理だろうな・・・とそう感じる、三十路独身オトコの何もないつまらない休日の一コマ。

2011-07-19 | Posted in 心のこと, , , , , , , , , Comments Closed