北森鴻 『狐罠』 宇佐見陶子シリーズ 古美術の世界は狸と狐の化かし合い

狐罠 (講談社文庫) 狐罠 (講談社文庫)
 作家:北森鴻
 出版社:講談社
 初版:2000年5月(単行本は1997年)

【あらすじ】
 店舗を持たず、自分の鑑定眼だけを頼りに骨董を商う「旗師」宇佐見陶子。
 彼女が同業の橘董堂から仕入れた唐様切子紺碧碗は、贋作だった。プロを騙す「目利き殺し」に陶子も意趣返しの罠を仕掛けようとするが、橘董堂の外商・田倉俊子が殺されて、殺人事件に巻き込まれてしまう。古美術ミステリーの傑作長編。

【レビュー】
 ここ最近、毎日何かしらの本を読んでいるのですが、流石にお気に入りの作家だけでは回らなくなってきた。そんな折、文庫本の「厚さ」と「古美術」という魅惑的なキーワードに惹かれて、北森鴻さんの作品を初体験。

 「古美術」のキーワードで連想するのは某長寿テレビ番組(…鑑定団ですね)位しか頭に浮かばないけれど、多分心の底では美術が好きなんだと自分では感じている。絵心も目利きも無いけれど、美術作品に絡む人間模様が好きなんだと思う。
 本作品『狐罠』からスタートする「旗師」宇佐見陶子シリーズは、個人的に興味がある美術世界の人間模様も楽しめるミステリー作品。

 同じく美術の世界に住む日本に帰化したイギリス人を元夫に持つ「旗師」宇佐見陶子。古美術界に身を置くオヤジ店主達から「値踏み」ともとれる粘っこい視線を投げ掛けられるほど容姿端麗な宇佐見陶子。しかし、屋号である冬狐堂の名の通りかは分からないけれど、どことなく気の張った冷たさを漂わせて古美術の世界を渡り歩いている。夫とは離婚したので、もちろん女一人。

 さて、肝心の物語の方ですが、あらすじにも書いてあるとおり…。ただ、宇佐見陶子に贋作を掴ませた橘董堂の柔和だけれども決して「紳士」ではない店主には、天才的な目利きを持つ男が一人…。大英博物館のケミカルラボで働いていたその男。現代の化学分析をも騙すだけの贋作を創り上げることができるのだ。
 その謎の男の正体、そして目的は…。物語は古美術の世界の魑魅魍魎さと美術作品の知識を読者にこれでもかと言うくらい植え付けてくれる。

 そう…魑魅魍魎とした古美術の世界。物語の中だけだろう…とは思えないほどリアルに描かれています。もっとも、そのリアルさを体験した事はないのですが…。おどろおどろしい古美術の世界、テレビ番組のお陰で面白可笑しく一喜一憂する素人達…深く読めば読むほど空恐ろしい気分になってくる。併せて、事件を追う刑事達の話を引き出すテクニックにも舌を巻く。

 古美術の世界で騙し騙されるその世界の住人、狡猾な刑事…狐と狸の化かし合いそのもの。息もつかせぬほどのリアリティを感じさせてくれます。古美術好きにもミステリ好きにもオススメ。

 それにしても、この魑魅魍魎とした古美術の世界…多分本当なんでしょうね。個人的にはその世界に興味はないけれど、同じ古物商絡みで古本屋の世界には興味があります。
 古本屋の世界にも狡猾な人間関係がありそうだけれども、古美術ほどではない…と信じたい。だって、ある意味、たかが文字が印刷された紙きれに過ぎないのだから…(ポジティブな意味で)。

狐罠 (講談社文庫)
 この『狐罠』が「旗師」宇佐見陶子シリーズの初作品。
 その続刊としては以下の作品が現時点で公開されています。

狐闇 (講談社文庫)
緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))
瑠璃の契り―旗師・冬狐堂 (文春文庫)

2009-03-03 | Posted in 美のこと, , , , , Comments Closed