漫画『コーヒーもう一杯』 山川直人 酸いも甘いも珈琲の味

コーヒーもう一杯(1) (ビームコミックス) コーヒーもう一杯(1)
 「明日」に旅立つその前に、一杯のコーヒーとささやかなロマンを。漫画界の吟遊詩人が贈る、アルマ香る物語。

【データ】
作品名:コーヒーもう一杯
著者:山川直人
出版:エンターブレイン・ビームコミックス
初版:2005年5月

【あらすじ】
 その苦みが人生を教え、その甘みが人生を癒す…。リリカルで切なく、儚いけれど胸締めつける、街角のエピソードたち。
 カップ一杯分の温もりにも似た、コーヒーを巡る、ささやかな物語集。

【目次】(第一巻)
コーヒーもう一杯 / 夜の子供たち / 昨日の明日 / バビロン再訪 / 夕暮れの男 / ブルーマウンテンの夢 / 夕立さん / 探偵日記 / まぼろし / ニャン太 / ヒコおじさん / となりの女 / Coffee Break(エッセイ)


【書評】
 一杯のコーヒーがある生活の温かく切ない読み切り物語集。
 版画風とも言えばいいのだろうか、暖かみのある版画調の素敵な絵柄。そして現代社会を切り取ってはいるのだけれども、どことなく昭和の香りがしてアナログな雰囲気。
 物語の雰囲気は、どことなく西岸良平さんの『三丁目の夕日』に似た感じが漂っています。

 さて、自分の話になるけれど、僕はコーヒーが好きだ。それも熱い熱いブラックが好きだ。そして残念だけれども、自分がコーヒーを飲む時には殆ど独りだ。だから思い出深い一杯のコーヒーを尋ねられても、残念ながら単調な独りの男の生活シチュエーションしか浮かんでこない。

 自分で煎れる珈琲、誰かに煎れて貰う珈琲、一杯の珈琲が香る素敵な生活、一杯の珈琲で流す切ない思い出…。

 苦い珈琲、甘い珈琲。

 人生に対して「酸いも甘いも噛み分ける」 という言葉がある。珈琲のテイストにも「酸味がある」や「甘みがある」といった表現がある。
 人生と同じような表現が用いられる珈琲。色々な意味で深みのある飲み物だという証拠でしょう。

 話を漫画『コーヒーをもう一杯』に移そう。素朴で温かいコーヒーを巡る短編が並んでいる。一杯のコーヒーが主役にもなれば脇役にもなっている。

 個人的に好きなお話が『バビロン再訪』。
 離婚した母に連れられて喫茶店に佇んでいる男の子。母親にコーヒーをおねだりするも駄目だと言われる。先に会計を済まして店を出る母親。入れ替わりに父親がやってくる。
 「好きなとこ連れて行ってやるぞ」と子供に声を掛ける父親。子供は渋り、「お父さんは、ひとりのときは何処に行くの?」と尋ねてくる。
 世界一の古本屋街に案内され江戸川乱歩の『怪人二十面相』を買って貰う男の子。その後古びた喫茶店に案内される。
 
 「古本屋さんを歩いて、喫茶店に入って、コーヒーを飲みながら買ってきた本を読む。おとうさんの遊びって、こんなんだぞ」 父親が呟く。そして息子にコーヒーを勧める。

 母親が待つ家に一人で帰ってきた男の子。別れたお父さんに買って貰ったコーヒー道具一式を見てとまどう母親。
 男の子の前に一杯のコーヒー。「お父さんとどこ行ったの?」尋ねる母親。
 男の子は黙ってコーヒーをすすりながら、古本屋で手にした江戸川乱歩を読みふける。

 思わず目頭が熱くなってくるお話。

 作者の山川直人さんの本好きと珈琲好きがじんわりと伝わってくるような気がします。『バビロン再訪』を読んでいると、まだ結婚もしていないけれど、何となく自分の将来の姿が底にあるような気がして複雑な気分になってきます。

 本書『コーヒーもう一杯』には、こんな思わずホッコリするようなお話がたくさん掲載されています。温かみがあり、どことなくアナログ的で昭和の香りがする作風は素敵の一言。コーヒー好きの方にはもちろん、『三丁目の夕日』のようなテイストの物語が好きな方にもオススメです。

コーヒーもう一杯

Ad

2008-03-23 | Posted in 日々のこと, , , , Comments Closed