松田公太 『すべては一杯のコーヒーから』 酸いも甘いも全てコーヒーテイスト

すべては一杯のコーヒーから (新潮文庫) すべては一杯のコーヒーから (新潮文庫)
 27歳で起業を志し大手銀行を退職した青年は、体当たりの交渉でスペシャルティコーヒーの日本での販売権を得た。銀座に待望の1号店を開業した後は、店内に寝袋を持ち込み泊まり込みで大奮闘。ビジネスにかける夢と情熱は、コーヒーチェーンを全国規模にまで大成長させた。金なし、コネなし、普通のサラリーマンだった男になぜできたのか? 感動のタリーズコーヒージャパン起業物語。

 残念ながら、日常利用している横浜駅周辺には、現在Tully’sのカフェは無い。少し前まではシェラトン裏辺りに店を構えていたのだが、直ぐ向かいにはスターバックスが存在し、苦境に立たされていたようだ。
 本書はTully’sを日本に紹介した松田公太さんのTully’sにまつわる物語だ。本人が書かれているので、喜びも悲しみも苦しみもリアリティ溢れる表現で描かれている。


【レビュー】
 個人的には珍しいのだけれども、本書の章タイトルを紹介したい。

第1章 Filled with Passion 情熱を込めて
第2章 On a Mission 使命感を持って
第3章 Experience (“No Fun, No Gain”) 経験を積む
第4章 Believe in Yourself 自分を信じて諦めない
第5章 People are Everything 人こそすべて
第6章 Visualize the Future 将来を見据えて
第7章 Recent Update その後の仕事

 本書のタイトルである『すべては一杯のコーヒーから』もそうだけれども、コンテンツのタイトルもよく考えられていると思う。本と章のタイトルで大方の内容が推測付くのは、良い本だと思う。

 松田公太さんとスペシャルティコーヒーの出会いは1995年の12月のボストン。その四ヶ月後には、当時勤めていた銀行の出張でスペシャルティコーヒー発祥の地であるシアトルに赴く。
 スペシャルティコーヒーはなぜシアトルなのか…。本書の初めにその理由が記されている。第一に気候が挙げられ、秋から冬にかけての雨と寒さが原因。第二は北西部随一の大都市、多くの企業が進出している。そして第三はシアトルに住む人々の市民性だ。いわゆるIT系で働く人々のライフスタイルにスペシャルティコーヒーが合っていたこと。

 松田公太さんはシアトルで様々なコーヒーを飲み歩き、タリーズに出会う。そこから、日本で紹介するために懸命に働きかけを行う。日本進出に辺り第一号店の選定、アメリカ本社とのやり取りやスタッフの育成、仲間の友情や裏切り…。良いことずくめだけの物語では決してない。紆余曲折、試行錯誤を重ねてタリーズを日本で成長させていく。

 酸いも甘いも、一杯のコーヒーテイストなのだ。

 2006年秋、タリーズジャパンを運営する松田公太さんのフードエックスグローブ社(FOODX GLOBE)は、日本の緑茶飲料の雄である伊藤園と資本提携し、子会社になる。緑茶を大切に扱う老舗伊藤園と、質の高いコーヒー豆を扱うタリーズとの企業文化は、個人的に素人目ながらマッチしていると思う。フードエックスには、タリーズの他に緑茶ベースのクーツグリーンティー(KOOTS GREEN TEA)ブランドも展開しているし…。

 本書『すべては一杯のコーヒーから』は、全て松田公太さんの言葉で書かれている。良いことも悪いことも…。だからこそ、物語に真剣に引き込まれるし、楽しくもあり悲しくもある微妙な心情にさせてくれる。本書が書かれたその後のタリーズの現状を知っているだけに尚更だ。
 個人的に、いわゆる起業家の人々の物語は、本人もしくはプロのライターが書いた書籍も余り読まないが、生々しい言葉で語られている本書は新鮮な驚きを抱きながら読むことが出来た。

 さて、最後に個人的な話を。
 数年前にシアトルを訪れたことがある。本書でも触れられている本場のスターバックスや、有名なデパートであるノードストローム(Nordstrom)の下りは読んでいて懐かしくなった。出来れば、シアトルに行く前に出会っておきたかった一冊だ。それでも、今度はスペシャルティコーヒーのためにシアトルに行っても良いかなとも思う。街も人も好きだから。

すべては一杯のコーヒーから (新潮文庫)

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2007-09-30 | Posted in 日々のこと, , , , , , Comments Closed